危険生物「マメハンミョウ」の毒について

こちらは、毎年のようにマメハンミョウが大量発生する、関東のとある場所で採取してきたものです。
体液に有毒成分を含むマメハンミョウは、条件が合うと、時に大発生することがあります。ここには実験用に31匹を採取してきましたが、大量発生地ではこのくらいとっても誤差にすらならない単位で発生する例があります。

今回はそんな有毒生物マメハンミョウに関するご紹介です。

マメハンミョウとは

マメハンミョウとは、コウチュウ目ツチハンミョウ科に属する昆虫の一種です。成虫はマメ科等の植物を食害しますが、幼虫はイナゴ類の卵をエサとするため、彼らを支えるこうした条件が一致し、増えるに十分な環境であると大量に発生することがあります。昔から知られる「斑猫(はんみょう)の粉」と称されるものは、このツチハンミョウ科に属する種が持つ「カンタリジン」という成分を含んだ成虫の乾燥粉末を指します。

体内に含むカンタリジンの毒の強さ

カンタリジン(Cantharidin, C10H12O4)は、自然界ではツチハンミョウ科とカミキリモドキ科の甲虫のみが生産できる有毒物質で、外敵に襲われるなどの刺激を受けた際に、脚部等の体節から、カンタリジンを含んだ体液を分泌して身を守っています。この体液に人が触れた場合、やけどに似たような症状を引き起こし、赤くヒリヒリ痛み、水膨れ等の症状が現れます(Aoun et al. 2018)。

毒の強さを表す指標にLD50(えるでぃーふぃふてぃー:半数致死量)というものがあります。これは文字通り、「半数(50%)の個体が死に至る毒の量」を指すものです。摂取方法により数値は変動しますが、カンタリジンの半数致死量はおよそ0.5mg/kgとされるので、Carrelら(1993)による「マメハンミョウのオスは生体重の10%に相当する17mgを保有する」とするもので単純に換算した場合、ここにいる31匹では、60kgの人相当で17人分の致死量に相当するカンタリジンが、ここにあることになります。そのため、あまりないかと思いますが、この虫を「食べる」などするのは大変危険な行為となるのです。

毒体液が肌についた場合の応急処置

誤ってマメハンミョウなどの昆虫に触れてしまい、カンタリジンを含む体液が肌についた場合は、患部を水でよく洗浄してください。肌についただけで死に至ることはないので、着いたとわかったらすぐに、落ち着いて、しっかりと、洗うことが大切です。簡単にささっと洗う程度では、洗浄が不十分となる可能性があるので、しっかりと洗浄しましょう。万が一水がない場合は、そのままにするよりも、ふき取るだけでも行った方が応急処置として効果が得られると考えられますが、拭き取る際に拭きのばして範囲を広げないように注意しましょう。

その後は、一般的な抗ヒスタミン軟膏を使用することで症状の軽減が期待できますが、死に至らなくとも、症状が辛ければ無理をせず病院を受診することをお勧めします。

おまけ

オスはカンタリジン濃度が羽化後も増えていくのに対し、メスの場合は羽化後にカンタリジン濃度が徐々に下がるとされており(Carrel et al. 1993)、オスが精包と同時にカンタリジンをメスに提供することが知られています(Lewis et al. 2014)。そのため、複数のオスと交尾することによってカンタリジンを受け取り、補っていると考えられています(Carrel et al. 1993)。
繁殖行動が体内の毒量にも左右するという、なかなか面白い現象ですね。

ただし、カンタリジンはすべての生物に対して毒性があるわけではなく、一部の哺乳類やカエル、鳥類や他の昆虫類などには耐性があると考えられています(Kelling et al. 1990)。

とはいえ、我々人に対しては、「毒」としての効果をもたらす危険生物の一つとなります。知らないと、見た目だけでは危険かどうかの判断が難しい種類なので、「こんな生物がいる」ということをぜひここで知っていただいて、事故予防に役立てていただければと思います。

引用文献

Aoun O, François M, Demoncheaux JP, Rapp C. 2018. Morning blisters: cantharidin-related Meloidae burns. Journal of Travel Medicine, 25: 1–3.

Carrel JE, McCairel MH, Slagle AJ, Doom JP, Brill J, McCormick JP. 1993. Cantharidin production in a blister beetle. Experientia, 49: 171–174

Kelling ST, Halpern BP, Eisner T. 1990. Gustatory sensitivity of an anuran to cantharidin. Experientia, 46: 763–764.

Lewis SM, Vahed K, Koene JM, Engqvist L, Bussiere LF, Perry JC, Gwynne D, Lehmann GUC. 2014. Emerging issues in the evolution of animal nuptial gifts. Biology Letters 10: 20140336.