気をつけたいのは 家族で暮らすハチの仲間

ハチの事故予防上で気にしておきたいのは、細腰亜目の中でも「大きな家族を作って暮らす性質」をもったハチの仲間です。これらのハチ類がもつ性質を「真社会性」といい、女王バチを中心とした群れを形成して生活しています。
ここでは、そんな性質をもった「刺される可能性の高い4つの真社会性ハチ類」を紹介します。

1)スズメバチ類

 

【巣の場所】:軒下、土の中、木の洞など
【攻撃性】:★★★★★

スズメバチ界で世界最大のオオスズメバチや、都市部で見られるキイロスズメバチ、コガタスズメバチなどが含まれる、一般的なスズメバチの仲間です。他のハチ類の中でも攻撃性は高いほうで、刺傷被害が最も起きやすいハチです。種類によっては、土の中や木の洞などの閉鎖空間に巣を作るため、外からは発見しにくく、「いつのまにか巣の近くに来てしまって刺された」なんていうケースも多いようです。
 キイロスズメバチにおいては、生ゴミや空き缶などに残されたジュースなどを幅広く利用するため、都市部での生活にも適応しています。他にも都市部においては、コガタスズメバチという種類も多く見られます。コガタスズメバチは、春先に、軒下や庭木などの中でトックリ型の巣を作るのが特徴です。
 また、感覚的ではありますが、私が自然ガイドとして活動する中で、意外と刺される被害を見てきたのがクロスズメバチでした。その小さくて黒い見た目から、ハエだと思って油断したり、気が付かなかったりして刺されてしまう例が、よくみられました。手すりやベンチにいることに気が付かずにつぶしてしまうケースや、お弁当に寄ってきて刺されるケースもあります。小さくておとなしめのハチですが、目立ちにくいので、手をつくところにいないかどうかを確かめるだけでも予防になります。
 ちなみに、ハチノコとして食される“ジバチ”と呼ばれているハチは、このクロスズメバチのことです。

 

2)アシナガバチ類

 

【巣の場所】:軒下、樹木など
【攻撃性】:★★★☆☆

フタモンアシナガバチなど、住宅街などでもよくみられる種類から、葉っぱの裏に巣を作るホソアシナガバチなど、さまざまな種類がいます。基本的にはスズメバチよりも小型でおとなしい種類が多いですが、中にはセグロアシナガバチのように比較的大型な種類もいます。
 基本的に、スズメバチのように近づいただけで攻撃してくることはあまりなく、「巣や巣が付いた枝などを刺激してしまった結果刺される」という例が多いのがアシナガバチです。
 近年では殺虫剤も優れたものが多く、アシナガバチの巣の駆除は比較的簡単にできてしまうことも多いので油断しがちです。しかし、たくさんの家族で暮らす性質がある真社会性ハチ類には変わりません。巣が遠く、誤って刺激してしまうようなことがない場所であれば、放っておいても被害はほとんど出ないものです。無理して駆除を行うほうが、かえって危ないこともあるので、むやみな駆除も考えものです。

 

3)マルハナバチ類

 

【巣の場所】:土中、床下など
【攻撃性】:★★☆☆☆

マルハナバチは、サクラやリンゴ、ツツジ、シロツメクサ、ブルーベリーなどの花を利用するハナバチの仲間です。コマルハナバチなどは、5 月から 6 月にかけて、公園などで植栽されるヒラドツツジやサツキなどに来ているのをよくみることができます。
基本的にはおとなしい性質ですが、針は持っています。程度の差はあれ、刺すときは刺してくるので、つかんだりつぶしたりすることがないように気をつけてください。

 

4)ミツバチ類

 

【巣の場所】:人の手による飼育、屋根裏、木の洞など
【攻撃性】:★★☆☆☆

代表的なセイヨウミツバチは、明治時代初期にハチミツなどを生産する養蜂業を目的として、ヨーロッパから移入された種類のハチです。野生下では冬の寒さを乗り切るのが困難なので、沖縄などを除いて基本的には野生化するのが難しいようです。一般的に売られているハチミツは、ほとんどが、このセイヨウミツバチによって作られたものです。
 日本に生息するもう一種類のニホンミツバチは、日本固有種で、セイヨウミツバチよりも体全体がやや黒色にみえる傾向があります。養蜂でも利用され、ニホンミツバチが作ったハチミツは、高値で取引されることが多いです。
 性質はおとなしいので、巣を不用意に刺激したり、つぶしたり触ったりするようなことがなければ、基本的に刺されることはありません。

 

スズメバチ、アシナガバチ、マルハナバチ、ミツバチ。真社会性をもつ、
この 4 つのハチの仲間については、しっかり覚えておきましょう。

 家族で暮らす性質「真社会性」について

 

これら、スズメバチやミツバチなど、家族で暮らす昆虫を「社会性昆虫」といいます。実際には「社会性」にもいろいろなタイプがあるのですが、彼らがもつ社会性のタイプは「真社会性」とよばれ、以下の 3 つの要素をもつことが特徴です。

1.成虫間において、幼虫・サナギの世話を共同で行う。
2.繁殖個体と労働個体の階級分化がみられる。
3.群れの発達に寄与できる次世代の成虫との同居がみられる。

つまり、かみ砕いていえば……

1.お母さん(女王)と娘(働き蜂)が一緒に子育てをする。
2.卵を産むのが仕事の「女王」と、世話や巣作りなどをする「働き蜂」に役割分担されている。
3.娘(働き蜂)が大人になっても巣から離れることはなく、お母さん(女王)と同じ巣で暮らしている。

ということです。

彼らはまるで会社組織のように、担当業務を分けて生活をしています。
 例えば、スズメバチやミツバチなどの場合、女王は産卵を担当、働き蜂は育児や防衛・掃除を担当、オス蜂は交尾を担当、というように分業されています。
 「女王」というと、どうも指示命令系統をもっているような印象を受けがちですが、実際は違います。巣の行動や性格を左右する要素はありますが、上司が部下に対して指示をするような指揮命令系統ではなく、「生殖」を担当業務とした、ひとつの階級として存在しています。
 そして、この社会は基本的に女社会で、女王はもちろんのこと、働き蜂もすべてメス蜂です。普段オス蜂はおらず、産卵をする女王と働き蜂だけで生活しています。昔の日本のように働くのは男の仕事というわけでもなく、現代社会のように男女問わず働くのでもなく、真社会性ハチ類の世界は、女性が働く女社会です。

 ちなみに、針を持っているのもメスだけです。ハチの針はもともと卵を産む管「産卵管」が武器へと変化したものなので、卵を産まないオス蜂は針を持っていません。基本的にオス蜂は、彼らの繁殖期ともいえる特定の時期に出てくるもので、育児や防衛・掃除などの巣の維持管理業務を一切行いません。
 オスは、繁殖を担当するために生きています。いわば「働かない蜂」なので、英語では「怠け者」という意味で「Drone(ドローン)」と呼ばれています。我々人間の道徳で考えれば、オス蜂はなさけないものですが、生き物としては、「生殖」という、とても重要な役割を果たしているといえます。

 

 なぜ真社会性ハチ類は刺される可能性が高いのか?

ここまででご紹介した4つのハチの仲間が、家族で暮らす性質「真社会性」をもったハチの仲間です。彼らは家族で暮らすという性質上、基本的に生殖を行わずに育児や防衛などの仕事に専念する「働き蜂」という階級が存在します。
彼らは、命を落としてでも家族を守る性質があるため、捨て身で防衛する、いわば自己犠牲的な「刺すことをためらわないハチ」といえます。
捨身で防衛する性質があるからこそ、刺される被害が出やすいのです。

そのため、彼らの性質を理解し、「捨て身で刺してこよう」と思わせないように、こちらが工夫することが大切です。よくテレビなどで聞くようなハチに刺される事故の裏には、その事故の理由となる彼らの生態や習性があるはずです。
「いつ、どんなときに攻撃をしかけてくるのか?」「そもそもなぜ攻撃してくるのか」そんな事故を予防するための重要な要素も、彼らの生き方の中に隠れています。

「現象には必ず理由がある」のです。
 そのような意味でも、彼らの性質を理解し、「いつ、どんなときに攻撃をしかけてくるのか?」をしっかりを学んでおくことは、重要なポイントとなります。

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